自己破産すると、住んでいた部屋を追い出されてしまうのではないかと不安になりますよね。この記事では、自己破産と賃貸借契約の関係について、過去の判例を交えながら解説していきます。結論から申し上げると、自己破産をしても、必ずしもすぐに退去を迫られるわけではありません。ただし、家賃滞納がない場合でも、状況によっては契約解除となるケースもあるため、注意が必要です。この記事を読むことで、自己破産による住居の不安を解消し、安心して生活を送るための知識を得ることができます。
1. 自己破産と賃貸借契約の関係
自己破産は、経済的に困窮し、借金の返済が困難になった人が、裁判所を通じて借金を帳消しにしてもらい、生活の再建を目指すための法的手続きです。 破産というと、家や財産を失い、住むところもなくなるというイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、自己破産をしても、必ずしもすぐに住居を失うわけではありません。
1.1 自己破産をしてもすぐに住居を失うわけではない
自己破産と賃貸借契約は、法律上は別々の契約として扱われます。自己破産は債権者に対する手続きであり、賃貸借契約はあくまでも貸主と借主の間の契約です。そのため、自己破産をしたという事実だけで、直ちに賃貸借契約が解除され、強制退去させられるわけではありません。
自己破産の手続きを開始すると、裁判所から「破産宣告」がなされ、同時に破産者に対して財産の処分を禁じる「保全処分」と、場合によって財産を管理・処分する「破産管財人」が選任されます。
破産管財人は、破産者の財産を換価し、債権者に公平に分配する役割を担います。この際、賃貸住宅も破産者の財産に含まれる可能性がありますが、だからといって必ずしも明け渡さなければならないわけではありません。
賃貸住宅は、生活の基盤となる財産であることから、裁判所は、破産者の生活状況などを考慮し、住み続けることを認めるケースも多いです。
1.2 賃貸借契約は破産手続きの影響を受けにくい
自己破産の手続きが開始されると、債権者は、破産者に対して、個別に債権の請求をすることができなくなります(受任通知)。
これは、賃貸借契約における家賃債権についても同様です。あくまで家賃滞納している場合の話です。
しかし、これは、家賃の支払い義務がなくなるわけではありません。
自己破産後も、生活の拠点であることには変わりないですから、賃貸借契約に基づく家賃の支払い義務は継続し、滞納すれば、契約解除や強制退去の対象となる可能性があります。
賃貸借契約が破産手続きの影響を受けにくい具体的な例としては、以下の点が挙げられます。
【将来発生する家賃債権は破産手続きの対象外】自己破産手続き開始前の家賃滞納分は破産債権となりますが、手続き開始後に発生する家賃は、破産手続きの対象外となる「財団債権」となるため、支払う必要があります。
【賃貸借契約は当事者間の契約】自己破産は債務整理の一種ですが、あくまでも債権者と債務者の間の問題です。賃貸借契約は、貸主と借主の間で直接結ばれた契約であるため、自己破産手続きの影響を受けにくいと言えます。
ただし、自己破産をした場合、貸主は、借主の経済状況が悪化したと判断し、契約の継続に不安を感じる可能性があります。そのため、家賃滞納がない場合でも、契約更新を拒否されたり、契約解除を求められるケースも少なくありません。
2. 判例から見る退去の可能性
自己破産をした場合でも、必ずしも賃貸借契約が解除され、退去を迫られるわけではありません。しかし、状況によっては、裁判所から契約解除が認められる可能性も存在します。ここでは、過去の判例を参考に、自己破産による賃貸借契約解除のリスクについて詳しく解説していきます。
2.1 賃貸借契約書に破産による解除の特約がある場合
管理会社や物件のオーナーとしては、自己破産の事実が分かった場合には、今後もきちんと賃料をしっかり支払ってもらえるのか、という不安が生まれます。そのため、今後のことを考え早めに契約を解除しておきたいという考えもあります。
しかし、法律上は、賃借人の自己破産をしたという理由だけで解除することはできないと考えられます。たとえ、賃貸借契約書に賃借人が破産した場合には契約を解除することができる、という記載があったとしても同様です。
賃貸人からも賃借人からもよくある質問として、賃貸借契約書に明確に賃借人が自己破産した場合には解除することができる、と書かれているから解除できるもしくは解除されるのではないか、という指摘を受けることがあります。
しかし、賃借人が破産をしただけでは解除はできないと考えます。
賃借人の破産を理由とする解除については、すでに古い借地借家法である借家法の時代に、最高裁判決が下されています。
「建物の賃借人が、破産宣告の申立てを受けたときは、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、賃貸人の解約を制限する借家法1条の2の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法6条により無効と解すべきである」
(最高裁昭和43年11月21日判決・最高裁判所第1小法廷判決/昭和42年(オ)第919号)
上記は、旧借家法の判例ではありますが、旧借家法1条の2が→借地借家法28条に、旧借家法6条が→借地借家法30条に同じような趣旨でで受け継がれています。そのため、この最高裁の判例は現代でも受け継がれていくと思われます。
つまり、あらかじめ賃貸借契約書に賃借人が破産したときには解除できると書かれてあっても、上記のような典型的なケースでは、契約書の特約は「無効」と解釈される可能性が高いと思われます。そうすると、賃借人の破産は契約の解除事由になりませんから、解除することができないことになります。
もちろん、破産以外の理由もしくは、破産と相まって他の理由により賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊するような事実があれば、話は変わってくるかもしれません。
ただし、賃借人の破産によって大家さんとの関係性が悪くなるのは事実ですし、なかなか信用を回復するのが困難になることもあります。大家さんが解除を請求してきて、そこでトラブルになるケースもあるので今後も住み続ける意思があるなら大家さんとの関係性には十分に気を配るべきです。
2.2 保証会社を利用している場合の注意点
賃貸借契約時に保証会社を利用している場合、自己破産の手続き開始決定が出ると、保証会社に連絡が行く可能性があります。保証会社は、通常、借主が家賃を支払えなくなった場合に、大家さんに代わって家賃を立て替える役割を担っています。
自己破産によって借主の経済状況が悪化した場合、保証会社は、将来の家賃滞納リスクが高まったと判断し、大家さんに対して賃貸借契約の解除を勧めることがあります。保証会社が契約解除を勧めてきた場合、大家さんはその勧めに従って契約を解除する可能性が高くなります。
2.3 過去の判例から学ぶべき教訓
過去の判例から、自己破産による賃貸借契約解除のリスクを回避するために、以下の点に注意することが重要です。
* **家賃滞納は厳禁**: 自己破産の手続き中であっても、家賃の滞納は絶対に避けなければなりません。家賃滞納は、賃貸借契約解除の大きな理由となります。
* **大家さんとのコミュニケーション**: 自己破産の手続き開始決定を受けた場合は、速やかに大家さんに報告し、今後の賃貸借契約について誠意をもって相談することが大切です。
* **保証会社との交渉**: 保証会社から契約解除の申し入れがあった場合は、速やかに保証会社と交渉し、契約を継続できるよう努力する必要があります。
自己破産は人生における大きな転換期であり、住居の問題は生活の基盤に関わる重要な問題です。過去の判例を参考に、自身のリスクを正しく理解し、適切な対策を講じることが重要です。
3. 自己破産による退去を回避するための対策
自己破産手続きに入っても、必ずしも住居を失うわけではありません。退去を回避し、住み慣れた環境を守りながら経済的な再建を目指すために、できる限りの対策を講じることが重要です。
3.1 家賃滞納を避けるための方法
自己破産による退去の最も大きなリスクは、家賃滞納です。破産手続き中は、収入が減ったり、支出が増えたりすることが予想されるため、家賃支払いを滞りなく続けることが非常に重要になります。
3.1.1 支出の見直しと家計管理の徹底
自己破産に至った原因を分析し、無駄な支出を洗い出して家計を改善しましょう。
- 通信費や保険料などを見直す
- 光熱費などの節約を心がける
- 家計簿アプリなどを活用する
3.1.2 収入確保のための努力
可能な範囲で収入を増やす努力も大切です。
- パートやアルバイトを探す
- スキルアップのための資格取得を目指す
3.1.3 家賃の減額交渉
大家さんや管理会社に事情を説明し、家賃の減額を交渉してみるのも一つの方法です。
住宅セーフティネット制度を活用できる可能性もあります。
3.2 保証会社や大家さんとの交渉
自己破産の手続きに入ると、保証会社や大家さんに連絡が行くことになります。しかし、だからといってすぐに退去を求められるわけではありません。誠意を持って状況を説明し、交渉することが重要です。
3.2.1 自己破産手続き開始の報告と今後の家賃支払いの意思表示
自己破産の手続きに入ったら、速やかに保証会社や大家さんに連絡し、状況を説明しましょう。
その際、今後も賃貸借契約を継続し、家賃を滞りなく支払っていく意思を明確に伝えましょう。
3.2.2 親族などからの支援の可能性
親族などに状況を説明し、家賃支払いの援助を受けられるか相談してみましょう。
親族が連帯保証人になっている場合は、自己破産の影響を受ける可能性があるため、事前に司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
3.3 専門家への相談の重要性
自己破産の手続きや賃貸借契約に関する問題は複雑であり、専門的な知識が必要です。
早期に司法書士や弁護士等の専門家に相談することで、状況に応じた適切なアドバイスやサポートを受けることができます。
3.4 公的な支援制度
自己破産による生活の困窮を支援する公的な制度もあります。これらの制度を活用することで、住居の維持や生活の立て直しを図ることができます。
3.4.1 住居確保給付金の利用
住居確保給付金は、離職などにより住居を失うおそれのある方を対象に、一定期間、家賃相当額を支給する制度です。
自己破産手続き中でも、一定の条件を満たせば利用できる可能性があります。
支給対象者 | 支給額 | 支給期間 |
---|---|---|
離職者 | 地域や世帯構成による | 原則3ヶ月(最長9ヶ月) |
廃業者 | 地域や世帯構成による | 原則3ヶ月(最長9ヶ月) |
その他、離職者と同程度の状況にある方 | 地域や世帯構成による | 原則3ヶ月(最長9ヶ月) |
3.4.2 地方自治体による支援制度
各自治体でも、住居の確保や生活の支援に関する独自の制度を設けている場合があります。
お住まいの地域の窓口に相談してみましょう。
4. 公的な支援制度
自己破産に陥った場合でも、住居を失わないように、国や地方自治体による様々な支援制度が存在します。これらの制度を活用することで、生活の立て直しを図り、安心して生活できる環境を確保することが重要です。
4.1 住居確保給付金
住居確保給付金とは、離職・廃業などにより経済的に困窮し、住居を喪失する恐れがある方、またはすでに住居を喪失している方に対して、一定期間、家賃相当額を支給する制度です。自己破産者は、この制度の利用対象となる場合があります。
4.1.1 支給要件
住居確保給付金の支給を受けるためには、いくつかの要件を満たしている必要があります。主な要件は以下の通りです。
- 離職・廃業などにより収入が減少していること
- 貯蓄などの資産が少ないこと
- 住居を喪失するおそれがある、またはすでに喪失していること
- 就職活動など、生活の立て直しに向けた努力を行っていること
詳細な支給要件は、厚生労働省のウェブサイト「住居確保給付金の支給を受けて住宅を確保するまで」などを参照してください。
4.1.2 支給額と支給期間
支給額は、住んでいる地域や世帯状況によって異なります。また、支給期間は原則として最大3ヶ月間ですが、状況によっては延長される場合もあります。
4.1.3 申請方法
住居確保給付金の申請は、お住まいの地域の市区町村役場の窓口で行います。申請に必要な書類など、詳しくは各自治体にお問い合わせください。
4.2 地方自治体による支援制度
住居確保給付金以外にも、地方自治体によっては独自の支援制度を設けている場合があります。
4.2.1 住宅手当の支給
所得が低い世帯に対して、家賃の一部を補助する制度です。
4.2.2 公営住宅への入居支援
家賃が安い公営住宅への入居を希望する場合、優先的に入居できる制度や、敷金・礼金の減免を受けられる制度などがあります。
4.2.3 民間賃貸住宅への入居支援
保証人なしでも入居できる制度や、家賃債務保証会社の利用料を補助する制度などがあります。
4.2.4 その他
生活困窮者向けの相談窓口を設け、生活全般に関する相談や情報提供を行っている自治体もあります。
これらの支援制度は、各自治体によって内容や利用条件が異なります。自己破産による退去の危機に直面した場合や、経済的に困窮している場合は、お住まいの地域の市区町村役場や社会福祉協議会などに相談し、利用できる制度について確認してみましょう。
5. まとめ
自己破産は、人生を大きく左右する出来事ですが、必ずしも住居の喪失に直結するわけではありません。賃貸借契約は、基本的には家賃滞納がなければ自己破産をしたという理由だけでは、賃貸人と賃借人との信頼関係が破壊されたとまでは言えない可能性が高く、破産手続きの影響を受けにくいという特性があります。ただし、家賃滞納などの債務不履行があれば、契約解除の可能性も出てきます。過去の判例から、保証会社の利用状況によっては、自己破産を理由に契約解除に至るケースもあることがわかります。自己破産に直面した場合でも、家賃滞納を避け、保証会社や大家さんと誠実に交渉することで、住居を維持できる可能性があります。不安な場合は、司法書士や弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。また、住居確保給付金などの公的支援制度も活用してみましょう。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士 中瀬雄太です。
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はじめまして、司法書士の中瀬です。
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