亡くなった方の遺産の中に借金が含まれていた場合、その相続人は原則として、借金を代わりに返済していく義務を負います。そのため、相続が発生したら遺産の中に借金がないかどうか前もって調べておく必要があります。
もし、遺産の中に借金が含まれていた場合でも、「相続放棄」をすれば借金を返済する必要がなくなります。
少額の借金であればそのままでもいいかもしれませんが、プラスの財産よりも多いような場合には放っておくわけには行きません。
この記事では、借金を事前に調べる方法と、相続放棄をする流れをご説明して行きます。
遺産の中に借金があるか調査する方法
借金を調べる方法はいくつかありますが、まずは代表的な方法を下記にご紹介します。
通帳や、郵便物を確認する
最も簡単な方法ですが、亡くなった方の通帳を確認してみてください。借金は預金口座から引き落とされていることが多いので、毎月一定額の引き落としがあれば借金の可能性もあります。
また、ご自宅に届く郵便物の確認も有効です。カード会社や消費者金融から借金をしていれば、返済が滞ると督促状が届くはずです。督促状が郵便物の中に含まれていないか確認してみましょう。
信用情報機関に開示請求する
JICCやCIC、KSCといった信用取引の事故情報を保存している機関に問い合わせてみる方法です。銀行や消費者金融、クレジットカード会社などはほとんどが、これらの信用情報機関に加盟しています。
開示請求は、本人の相続人であれば相続人であることを証明する書類があれば、代わりに行うことができます。手数料も1,000円くらいなので、やってみる価値はあります。
不動産の登記簿謄本を確認する
不動産を担保にした借金などがあると、その情報は登記簿謄本(登記事項証明書)を取得することで確認できます。たとえば、銀行から不動産を担保にして借り入れをした場合、銀行は抵当権や根抵当権を設定します。登記を確認することで、借入先の銀行名、債権額などが確認できます。
不動産を担保にするような借金は通常、金額も高額なことが多いです。
遺産相続した時の対応方法
まずは、借金の調査をして、それが終わったらいくつかの対応方法に分かれます。
財産が多ければ単純承認する
単純承認とは、相続人がそのまま亡くなった方の全ての権利や義務を承継しますという意思の現れです。また、法律では相続が開始してから何もせずに3ヶ月経過すると自動的に単純承認したものとみなされます。
財産調査の結果、プラスの財産の方がマイナスの財産よりも多ければそのまま単純承認すれば問題ないです。たとえその中にマイナス財産(借金などの負債)が含まれていたとしても、プラスの財産の方が多ければトータルでプラスになるので問題はありません。
ただ、プラスの財産に預貯金がほとんどなく、多くが不動産だった場合には要注意です。不動産はもし売り手がなかなか見つからなかった場合などに、現金化をすることが難しいです。もし、遺産の中に借金も含まれていてそれを返済していかなければいけないときは、大変になります。
借金が多ければ相続放棄をする
財産調査をした結果、借金の額が多くてプラスの財産を上回るような場合、「相続放棄」を検討してください。
相続放棄をすると、亡くなった方の遺産は何も取得できませんが、一切の借金も背負わなくて済みます。相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになるのです。
どっちが多いか不明のときは限定承認
財産調査の結果、プラスの財産とマイナスの財産のどっちが多いのかよく分からない場合は、「限定承認」を選択することもできます。
限定承認とは、プラス財産とマイナス財産の両方を相続するが、プラスの財産の範囲内でマイナス財産を返済していけばよいという制度になります。
しかし、限定承認だけは相続人の全員で行うことが条件なので、もし他の相続人の1人でも単純承認を選択すると、限定承認は使えませんのでご注意ください。限定承認の手続きは複雑なので、司法書士や弁護士等の専門家に相談するのが得策です。
相続放棄の手順
家庭裁判所への相続放棄の手順を紹介していきます。
必要書類を集める
相続放棄をするための第1ステップは相続放棄に必要な書類集めからです。
- 亡くなった方の戸籍の附票もしくは住民票の除票
- 亡くなった方の死亡の記載のある戸籍謄本
- 申述人の戸籍謄本
また、申述人が直系尊属や兄弟姉妹の場合には集める書類も多いのでさらに大変になります。
申述所を家庭裁判所に提出する
必要書類が揃ったら、相続放棄申述所を記入し管轄の家庭裁判所へ提出に行きます。申述書は裁判所のホームページからダウンロードして使用できます。
記述の仕方の例も載っているのでわかりやすいです。
この中でも、「申述の理由」と「相続開始があったのを知った日」や「放棄の理由」は正確に記入してください。
提出場所は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
照会書を返送する
相続放棄の申述をした後、しばらくすると、相続人のもとに家庭裁判所から照会書が届きますのでこれを書いて返送します。
照会書は、簡単に言えば、「この手続きをしますけどお間違いないですね」と確認の電話です。
通知書が送られてくる
相続放棄の照会書を返送してから1週間くらいで問題なければ通知書が送られてきます。通知書が届いた時点で相続放棄の完了です。
相続放棄の注意点
相続放棄は、借金を全て放棄できるので便利な制度ではありますが、相続放棄をすることで発生する影響をよく理解した上で慎重に判断する必要があります。
相続放棄は撤回ができない
一度、相続放棄をしてしまうと原則、撤回ができません。ですので、相続放棄をする場合は慎重に判断するようにしてください。
後からプラスの財産が見つかったからやっぱり単純承認したいと思っても、相続放棄をしてしまった後では撤回できません。
相続放棄は家庭裁判所へする必要がある
相続放棄は、口頭で言ったり、書面を交わすだけでは法律上の効果はありません。ここも勘違いされている方が多いところになりますが、相続放棄は家庭裁判所へ申述しないと効果がありません。
ですので、たとえば遺産分割協議書の中で相続放棄をする旨の文言が書いてあっても正式には相続放棄できていません。
相続放棄には期限がある
相続放棄は相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。相続が開始すると身内の方は色々と手続きに追われてあっという間に3ヶ月過ぎてしまいます。
また、必要書類を集めるのにも時間がかかりますので、できるだけ早めに動くようにしてください。もし、3ヶ月を過ぎてしまいそうなときは、家庭裁判所に対して、期限の伸長の手続きをすることで期限を伸ばすことも可能です。この場合は、相続放棄の期限である3ヶ月以内に行う必要があるので注意してください。
相続放棄をすると他の相続人へ権限が移行する
たとえば、親が亡くなり子供2人が相続人の場合、2人共が相続放棄をすると、直系尊属(祖父や祖母)が相続人になります。直系尊属がすでに死亡している場合は、親の兄弟姉妹が相続人になります。
相続放棄をすることで、他の相続人に相続権が移行することがありますので、そのことも考えておく必要があります。
相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄の手続きを代わりに行ってくれる専門家は司法書士や弁護士がいます。一般的に司法書士の方が弁護士に依頼するよりも費用が安いことが多いです。
スピーディに対応してくれる
相続放棄を司法書士などの専門家に依頼することで手続きをスピーディに行ってくれます。また、財産調査なども代わりに行ってくれるため、その後の相続手続きの際にも役立ちます。
裁判所への対応は一般の方は慣れていないことがほとんでですので、専門用語も多く混乱することも多いです。普段から裁判所への書類の作成を業務としている司法書士なら安心です。
また、戸籍などの必要種類も同時に集めてもらえるので役所に行く手間も省けます。
3ヶ月の期限を過ぎていても対応できる事もある
ケースによっては、3ヶ月の期限を過ぎてしまっている場合もあります。たとえば期限を過ぎた後に多額の借金があることが判明した場合です。このようなケースでも、借金の存在を知った時から3ヶ月以内であることが証明できれば、相続放棄が認められることもあるのです。
しかし、このような複雑なケースでは専門的な知識や経験も必要になるため、専門家に依頼するのがおすすめです。
まとめ
遺産の中に、借金が含まれているか心配な場合は、まず財産の調査を行ってみてください。
その上で、相続放棄をするのかどうかの選択を考えてみてください。どうするのがベストな選択なのか不安な方は当事務所にお気軽にご相談ください。
当事務所では、お客様と一緒に最適な方法を考え、今後の人生が明るくなるようにベストな提案をさせていただきます。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士 中瀬雄太です。
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はじめまして、司法書士の中瀬です。
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